全粒粉の落とし穴

今朝NHKの番組で、小麦のふすま(胚乳を包む皮の部分)や玄米、そして「全粒粉」の健康効果について特集していました。(これらの食品は大腸内の酪酸を増加させ免疫機能を正常化する働きがある、という話でした。)

pHを5.5未満にすると全粒粉内のフィターゼ酵素が活性化されます (写真 : pH 試験紙 / 123rf)

もちろん、それらの食品の「栄養素」が健康へ好影響をもたらすことは事実でしょう。日本でも玄米から白米ばかりを食すようになり新たな疾病が増えたといいます。

健康志向で見直されている小麦のふすまや全粒粉。ただ、メディアはその栄養面だけをピックアップしていますが、気をつけなければならない大切なことが伝えられていません。

ひとつめは、小麦全粒粉に含まれる残留農薬の問題です。先の記事でも書きましたが、日本の小麦の約90%はカナダやアメリカからの輸入に頼っている状況です。輸入される小麦はポストハーベストとといって害虫防疫のために収穫された麦粒に直接農薬が散布されます。そのため当然のように麦粒の表面=ふすまの部分の農薬の残留値は高いものとなります。全粒粉はふすま、胚芽、胚乳を全て挽いた粉なので、そのような小麦の全粒粉がとてもリスクの高いものであることは容易に想像ができます。

この残留農薬の問題については、問題視されて久しい(未だ何ら解決されていませんが…)ですが、小麦の全粒粉については、もうひとつ大切なことがあります。それは小麦の全粒粉にはフィチン酸というミネラル吸収を阻害する物質も多く含まれていることです。人間の消化器系はフィチン酸の加水分解ができないので、貯蔵されたミネラル(リン、カルシウム、鉄、マグネシウム、亜鉛)の吸収を阻害することが知られています。

しかし、このフィチン酸による阻害作用は中和することができます。小麦の全粒粉は天然ルヴァン酵母のようにゆっくりと自然発酵させ、pHを5.5未満にすると全粒粉内のフィターゼ酵素が活性化されます。このフィターゼ酵素はフィチン酸のミネラル吸収阻害作用を中和することができるのです。天然ルヴァン酵母で長時間自然発酵させるパンは実に自然の理にかなっているのです(こういうことを自然の中に見出した古の人々に心からリスペクトです)。逆にいうと、イーストを添加し短時間発酵で工業的生産される全粒粉入りパンではこのフィチン酸の中和が不十分だと言えます。

メディアの伝え方も悪く「全粒粉」という言葉の健康イメージだけが一人歩きして、また、市場の多くの食品会社やパン屋はマーケティングのために短絡的に「全粒粉使用」といった言葉を利用しています。その全粒粉の素材がどのように作られているか、どのように加工され食されるのが本当に人の健康に良いのか、ということはどうやら重要ではないみたいです。

素材を知ること、素材の特性や最適な調理法や食べ方を知ること、作り手においてはその上で健康的な食を人々に提供することは食文化の基本ごとです。しかしながらマーケティング至上主義の社会においてはどうやらこの当然の基本すら軽視されつつあると感じます。